日本では水道が普及する前は井戸水が生活用水として使用され、手洗い・洗濯・炊事・飲用など日常生活において欠かせない物でした。
水道代のかからない井戸水はコスト面でも利用価値が高いのですが、ピロリ菌等衛生面での問題もあり飲用水として使用するには課題もあります。
今回は井戸水を安全に使うための方法やメリット・デメリットについてご紹介していきます。
井戸水と水道水の違いとは
まずは井戸水と水道水の違いについてご紹介していきます。
・水道水
水道水の水源は河川・池・湖・雨水・地下水です。
採水した水の汚れを取り除き、浄水場にて多くの手間と時間をかけて濾過や消毒処理を行います。
蛇口をひねった時に出てくるものを『上水道』、使用後に排水へ流すものを『下水道』と呼びます。
水道水の安全性は、水道法第4条の水質基準と水道事業者の管理体制のもと厳しくチェックされ守られています。
水道水を使用する際に『塩素臭やカルキ臭が気になる』という方もいますが、
そういった臭いがするという事はきちんとした処理が行われた安全な水という証拠でもあります。
水に対してきちんと処理が行われているというのが井戸水との大きな違いです。
・井戸水
井戸水とは地下にある水脈から汲み上げられた水のことです。
水脈から直接水を汲み上げているため、水道水のような濾過や消毒処理は施されていません。
井戸は地下の水脈に繋がる設備の事ですので井戸水は地下水と同じ意味になります。
スーパーやコンビニなどで販売されているペットボトルに入ったミネラルウォーターも井戸水のひとつです。
地層などを通過し、自然の中でろ過されてミネラルなどの成分が豊富に含まれた水として、品質基準をクリアしたものが販売されています。
また、井戸水の中には温泉や天然ガスが含まれることがあるため、水源により味や成分も異なります。
・井戸水の種類
井戸水には『不圧地下水』と『被圧地下水』という2種類があります。
また井戸も『浅井戸』と『深井戸』の2種類に分かれており、『不圧地下水』は『浅井戸』、『被圧地下水』は『深井戸』で使用されています。
井戸の種類は地表から水脈までの距離によって決まります。
地表から水脈までが約10~30mの場合は浅井戸、30m以上のものを深井戸と呼びます。
浅井戸は地表から水脈までの距離が短いため、地層を十分に通っておらず、天然の濾過が出来ていない場合があります。
そのため、浅井戸の不圧地下水は飲用に使われることは少なく、農作業用や工業用などに使われています。
『被圧』『不圧』とは地中にある水を含んだ地層のことで、どちらの地層を流れているかで水にかかる圧力が異なります。
被圧帯水層は上下が難透水層でサンドイッチされた状態で帯水している地下水で、遠く離れた山地に降った雨が何年もかけて
ゆっくりと地下を流れてきたものでミネラルウォーターとも呼ばれています。
細かい砂、粘土、岩盤などがいくつも層を作っており、水に高い圧力がかかっています。
そのため、地表に近い場所を流れる不圧地下水に比べて地上の影響を受けにくく雑菌などの繁殖もしづらいため、比較的安全性が高いとされています。
ただし何らかの原因で雑菌が繁殖することもありますので必ずしも安全というわけではありません。井戸水を安全に使うためには、水質の管理を適切に自分で行う必要があります。
不圧帯地下水層は上位に加圧層が存在せず、地下水が被圧していない帯水層の事です。
家庭で使用されている井戸は浅井戸が多いのですが、水質が不安定なことが多く、地震などで地盤が大きく変動すると水質が変わってしまいます。
井戸水は水質検査などが義務付けられておらず、安全管理は井戸の所有者に任されている状況ですので使用の際は十分に気を付ける必要があります。
近隣に廃棄物や汚水を出すような施設がある場合や、人や動物が簡単に行き来できる場所にある井戸水は飲用に向いていませんのでご注意ください。
井戸水の危険性
では一体井戸水にはどんな危険性があるのでしょうか?詳しくご説明していきます。
井戸水には主に3つの危険性があります。
①水質が不安定
②動物の糞による汚染リスク
③ピロリ菌などの感染リスク
①水質が不安定
先程もお伝えした様に主に家庭で使われている浅井戸は水質が不安定な事が多く、地震などで地盤が大きく変動すると水質が変わってしまいます。
また、近隣に土壌汚染を引き起こすような環境がある場合や、天候・季節などの僅かな変化でも水質に影響が出ます。
環境に変化がなくても長い間利用して井戸が古くなると、内部の汚れなどでも水が汚染される事があります。
天然水を汲み上げる井戸の特性上、井戸水は汚染されやすく、例え前日まで綺麗だったとしても急に水質が変わることも珍しくありません。
目に見えない汚れもありますので汚染に気付かず飲用してしまうと大変危険です。
②動物の糞による汚染リスク
井戸水に寄生虫などに感染した動物の糞が混入するとそれを飲んだ人も寄生虫に感染する危険性があります。
中でも代表的な寄生虫が『エキノコックス』です。
エキノコックスはキツネの体内にいることが多い寄生虫で、
キツネの糞などから幼虫が人体に侵入すると長い時間をかけて肝臓を蝕みます。
感染した事に気付かず治療せずにいると肝機能障害を引き起こし、最悪の場合は死に至る可能性がある恐ろしい病です。
井戸の近くに動物が近づかない様に対策をとる必要があります。
また、手動で汲み上げる井戸の場合、動物の糞などの異物が混入しないよう、使用しない時には必ず蓋をしておくようにお気を付けください。
③ピロリ菌などの感染リスク
一見綺麗に見える水でもきちんと消毒がされていない井戸水には目に見えない雑菌が含まれていることも多く、飲用すると危険です。
特にピロリ菌は井戸水を飲むことが主な感染源の一つとなっています。
ピロリ菌は大人だけでなく、胃酸が少ない幼児は更に感染しやすいので注意が必要です。
ピロリ菌は感染しても多くは無症状ですが、慢性的な胃炎や十二指腸炎の原因となります。
また、胃炎を放置することにより胃がんを引き起こす可能性もある恐ろしい細菌です。
ご紹介したように、井戸水には様々な危険性がありますので飲用する為にはきちんとした安全対策が必要となってきます。
では一体どの様な対策をすればいいのでしょうか?
ここからは対策方法について詳しくご紹介していきます。
井戸水を安全に飲む対策方法
井戸水を安全に飲む為の対策方法は下記の3つです。
①水質検査の実施
②井戸周辺の環境整備
③井戸水の加熱・煮沸
①水質検査の実施
井戸水を安全に飲む為に、まずは水質検査を実施する必要があります。
井戸水の水質検査は義務付けられている訳ではありませんが、飲用する場合には年に1度は水質検査を実施する事を厚生労働省が推奨しています。
水質検査では井戸水の味や匂いに異常がないか、不純物が含まれていないか、また硬度が飲用に適しているかなどを調べる事が出来ます。
水質検査の項目は水道水の場合は51種類ですが、井戸水の場合は13項目程が一般的です。
井戸水の水質検査は、厚生労働大臣の登録を受けた検査機関や自治体によっては保健所で実施している所もあります。
(水質検査の流れは、保健所でも検査機関でも大きな差はありません)
料金・受付方法・採水容器等については、各検査機関によって異なりますので依頼の際に確認する事をおすすめいたします。
井戸水の水質検査項目(13項目)
項目 | 基準 |
一般細菌 | 1mlの検水で形成される集落数が100以下 |
大腸菌 | 検出されないこと |
亜硝酸態窒素 | 0.04mg/l以下 |
硝酸態窒素および亜硝酸態窒素 | 10mg/l以下 |
塩化物イオン | 200mg/l以下 |
有機物(全有機炭素(TOC)の量) | 3mg/l以下 |
pH値 | 5.8以上8.6以下 |
味 | 異常でないこと |
臭気 | 異常でないこと |
色度 | 5度以下 |
濁度 | 2度以下 |
鉄およびその化合物 | 鉄の量に関して、0.3mg/l以下 |
硬度(カルシウム、マグネシウムなど) | 300mg/l以下 |
②井戸周辺の環境整備
井戸水を飲用する場合は井戸周辺の環境整備をする事も大切です。
地下水は周囲の環境に影響を受けやすく、知らぬ間に汚染されてしまう事があります。
特に井戸周辺に畑などがあり農薬を大量に使用している場合や、野生動物などの糞がある場合には井戸水の中に農薬や雑菌・寄生虫が混入してしまう可能性もあります。
井戸周辺は定期的に点検をして常に清潔に保つように気を付けてください。
使用していない時に井戸に蓋をするのはもちろんの事、鍵や重しなどをして簡単に開けられないようにしておくと安心です。
③井戸水の加熱・煮沸
水質検査やメンテナンスを実施していてもウイルスや雑菌が混入してしまう可能性は0ではありません。
井戸水は通年飲みやすい温度に保たれている為、そのまま飲みたくなるかもしれませんが、安心して飲む為には生で飲むのは控えてください。
井戸水の中にいる菌のほとんどは煮沸によって死滅するので、沸騰させてから5分程しっかり加熱するのがおすすめです。
中にはボツリヌス菌など熱に耐性がある雑菌もあり、実際に井戸水からボツリヌス菌に感染し、乳児ボツリヌス症を発症した事例もあります。
井戸水を飲用する際はこの様なリスクがある事を理解しておく必要があります。
井戸水の活用方法
井戸水を飲用するには様々な対策を徹底して行う必要があり、正直なところあまり飲用には向いていないのですが、井戸水には飲用以外にも様々な活用方法があります。
・野菜や花など植物への水やり
井戸水は古くから農業用水として利用されています。
庭の花壇への水やりや家庭菜園に使用するのがおすすめです。
畑など広い土地では水を大量に使用する為、井戸水を利用する事により水道代の節約に繋がります。
・洗車・洗濯・トイレ
井戸水を洗車・洗濯・トイレなど水を沢山使う場面で利用するのもおすすめです。
しかし、カルシウムなどのミネラルを豊富に含んだ井戸水ですと洗車をした際に車全体に白いシミが出来てしまう事があるので注意が必要です。
このシミはなかなか消すことができず、ガラスや塗装を痛めてしまう可能性も考えられる為、使用する前に水質を確認する事をおすすめいたします。
また、洗濯で使用する際も鉄やマンガンの含有量が多い井戸水を使用してしまうと洗濯物が黄ばんだり黒ずんでしまう可能性があります。
厄介なことに一度変色すると漂白剤でも綺麗になりませんので注意が必要です。
・営業用水(工業用水・事業用水)
井戸水は、工場での部品洗浄・冷却水、洗車用水などでも利用されています。
これらは大量の水を使用する為、水道を利用すると毎月高額な費用が発生してしまいますが井戸水を使用する事により経費の削減に繋がります。
・防災井戸
井戸水は災害が起きても断水する事がないので防災井戸としても活用する事が出来ます。
非常用の備蓄として蓄えられている水は清潔な飲用水が多く、災害時に限られた水をトイレや清掃などといった衛生管理に回すことは出来ません。
井戸水は管理がされていない場合、飲用する事は出来ませんがこうした生活用水に活用する事が出来ます。
しかし電動式の場合は停電が起きてしまうと水が汲み上げられないため、水源が停止してしまいます。
いざとう時に備えて発電機を準備しておくのもおすすめです。
井戸水の活用に向かない物
逆に井戸水の使用には向かない活用方法もあります。
お風呂
井戸水をそのままお風呂で使うのはおすすめ出来ません。
水質検査やメンテナンスを実施していない水は雑菌を含んでいる可能性があり、汚れたお湯に体をつけるのは危険です。
また、入浴するとお湯の中の一般細菌の数は増えていきます。
水道水は処理がされているため一般細菌の急激な増殖はありませんが、井戸水はどんどん一般細菌が増え、翌日は1000倍になるとも言われています。
一般細菌が大量に増えたお風呂のお湯は、匂いやぬるつきの原因にもなります。
また鉄を多く含む水質の場合、長期間使用すると給湯設備の内部に蓄積していき鉄錆が出来て部品の劣化を早めたり、浴槽が赤茶色に変色してしまう恐れがあります。
いかがでしたでしょうか?今回は井戸水とその活用方法についてご紹介してきました。
井戸水はメリット・デメリットを踏まえた上で利用すれば節約にも防災対策にもなり便利です。
現在利用されている方もそうでない方も正しい知識を持っていればいざという時に役立つかもしれません。
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